SNSでの政治的発言、どこからが選挙運動?個人の表現の境界線Q&A
はじめに
政治や社会問題に関心を持つ方々にとって、SNSは自身の考えを発信し、意見を交換する重要なツールとなっています。しかし、特に選挙期間中には、「どこまでが個人の自由な表現で、どこからが選挙運動と見なされてしまうのか」という不安を感じる方も少なくありません。
このQ&Aでは、一般市民の皆さまが安心して政治的表現を行えるよう、公職選挙法における「選挙運動」の定義と、個人のSNSにおける発言や行動の境界線について、具体的な事例を交えながら解説いたします。
Q1: 個人のSNSアカウントで政治的な主張をすることは、選挙運動になりますか?
回答
個人のSNSアカウントで政治的な主張をすること自体は、原則として個人の表現の自由として認められています。しかし、その内容が「特定の候補者の当選を目的として投票を依頼する行為」や「特定の候補者を落選させる目的で投票を辞退させる行為」に該当すると判断された場合、公職選挙法上の「選挙運動」と見なされる可能性があります。
詳細解説
公職選挙法では、「選挙運動」を「特定の選挙において、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為」と定義しています。この「当選を目的として」という点が重要な判断基準となります。
OKな例:
- 「私は〇〇政策に賛成です。」
- 「現在の△△問題は、このように解決されるべきだと考えます。」
- 「今回の選挙では、若者の投票率が上がってほしいです。」
- 特定の政党の政策や理念について、一般的な意見を表明すること。
NGとなる可能性のある例:
- 「〇〇候補に絶対に投票してください!」
- 「〇〇党に投票して、この国を変えましょう!」
- 「✕✕候補はひどいので、絶対に投票してはいけません。」
- 特定の候補者の当選を直接的に依頼・勧誘するメッセージをSNSで発信すること。
個人の意見表明と選挙運動の境界線は曖昧に感じられることもありますが、肝心なのは「特定の候補者への投票を直接的に依頼・勧誘しているか」という点です。事実の表明や一般的な意見表明、政策論議は問題ありません。
Q2: 特定の候補者の名前を挙げたり、その候補者の公約についてSNSで言及したりするのはどうですか?
回答
特定の候補者の名前を挙げたり、その候補者の公約について言及したりすること自体は、それだけでは直ちに選挙運動とはなりません。ただし、Q1と同様に、その言及が「特定の候補者の当選を目的とした投票の依頼や勧誘」にあたる場合は、選挙運動と見なされます。
詳細解説
候補者の名前や公約に言及することは、有権者が候補者を選択する上で重要な情報源となり得ます。そのため、単なる情報提供や、それに対する個人の意見表明は表現の自由の範囲内です。
OKな例:
- 「〇〇候補は、A政策を掲げていますね。」
- 「〇〇候補のBに関する公約について、私はこう考えます。」
- 特定の候補者が主張している政策内容を引用し、それに対する自身の賛否を述べること。
- 候補者の公開されたSNS投稿や公式情報(ウェブサイト、パンフレットなど)を引用して、その内容について客観的に解説すること。
NGとなる可能性のある例:
- 「〇〇候補の公約は素晴らしいです!〇〇候補以外に投票する選択肢はありません!」
- 「〇〇候補が当選しないと私たちの生活は良くなりません。皆で〇〇候補に清き一票を!」
- 候補者の主張を引用しつつ、過度な賛美や批判により、投票行動を直接的に誘導しようとすること。
情報を伝えることと、投票を依頼することは異なります。あくまで自身の意見や見解を述べるに留めることが重要です。
Q3: 友人とのDMやクローズドなLINEグループでの会話は、選挙運動と見なされますか?
回答
友人とのダイレクトメッセージ(DM)や、参加者が限定されたクローズドなLINEグループなど、ごく限られた範囲内での私的な会話は、原則として公職選挙法が規制する「選挙運動」の対象とはなりません。しかし、そのグループが実質的に不特定多数に開かれている状態であったり、組織的な活動の一部であったりする場合は、その限りではありません。
詳細解説
公職選挙法が想定する「選挙運動」は、一般に「不特定多数の有権者に対し、候補者への投票を呼びかける行為」を指します。そのため、個人的なつながりの中で行われる私的な意見交換は、通常は選挙運動とは見なされません。
OKな例:
- 数人の友人とのLINEグループで、「どの候補者に投票するか悩んでいる」「〇〇党の政策ってどう思う?」などと意見交換をすること。
- 特定の候補者に対する個人の感想や応援の気持ちを、親しい友人にDMで伝えること。
NGとなる可能性のある例:
- 数百人規模のオープンなLINEグループや、誰でも参加できるようなSNSコミュニティで、特定の候補者への投票を組織的に呼びかける行為。
- 私的なDMやグループチャットであっても、それを連鎖的に利用して不特定多数への働きかけ(例: 「このメッセージを10人に転送して〇〇候補を応援しよう」など)を行うこと。
重要なのは、そのコミュニケーションが「公開性」や「不特定多数への影響力」を伴うかどうかです。限定された友人間の私的な会話であれば、通常は問題ありません。
Q4: 選挙期間中にデモや集会に参加し、その様子をSNSで投稿しても大丈夫ですか?
回答
選挙期間中にデモや集会に参加すること、またその様子を個人のSNSで投稿すること自体は、個人の表現の自由として認められています。ただし、投稿内容が「特定の候補者の当選を直接的に依頼・勧誘する」ものであってはなりません。
詳細解説
政治的なデモや集会への参加は、憲法で保障された集会・表現の自由の重要な形です。その活動をSNSで報告することも、個人の情報発信として可能です。
OKな例:
- デモに参加した写真をSNSに投稿し、「〇〇問題について考える良い機会になりました」「多くの人が集まり、声を上げていることに感動しました」など、個人の感想や社会問題への意見を述べること。
- 集会のテーマ(例: 「〇〇政策の実現を求める」など)について言及し、自身の賛同を表明すること。
NGとなる可能性のある例:
- デモや集会の参加を呼びかけつつ、「このデモの目的は〇〇候補を当選させることです。皆で彼に投票しましょう!」と特定の候補者への投票を直接的に呼びかけること。
- 集会の様子を投稿する際に、「この集会に参加して〇〇候補への投票を決めました。皆さんも投票を!」と投票を促すメッセージを付加すること。
あくまで「個人の意見表明」の範囲に留め、特定の候補者への投票を直接的に誘導するような表現は避けるべきです。
Q5: 政治家のSNS投稿をシェアしたり、「いいね」したりするだけでも問題になりますか?
回答
政治家や政党のSNS投稿をシェア(リツイート、引用リツイートなど)したり、「いいね」を押したりすること自体は、個人の情報収集や関心の表明であり、原則として公職選挙法上の「選挙運動」とは見なされません。しかし、それに自らの投票依頼・勧誘のメッセージを付加すると、選挙運動と判断される可能性があります。
詳細解説
シェアや「いいね」は、SNSにおける一般的なコミュニケーション機能です。これにより特定の候補者の情報が拡散されることはありますが、それはあくまで情報流通の範囲内です。
OKな例:
- 特定の政治家が投稿した政策に関するツイートをそのままリツイートすること。
- 政治家の投稿に「いいね」を押して、その内容に共感を示すこと。
- 政治家の投稿を引用リツイートし、「この政策は議論が必要だと思います」と自身の意見を簡潔に加えること。
NGとなる可能性のある例:
- 政治家の投稿をシェアする際に、「この投稿を読んだら〇〇候補に投票したくなるはず!みんなで投票に行こう!」など、投票を依頼・勧誘するコメントを付加すること。
- 「いいね」を押すこと自体は問題ないものの、多数のアカウントから組織的に「いいね」を付与して特定の候補者を不当に有利にしようとする行為は、選挙運動と見なされる可能性があります。
単なる「共感」や「情報共有」の範囲を超えて、能動的に投票を促すメッセージを加える場合は、注意が必要です。
まとめ
本記事では、個人のSNSにおける政治的表現と選挙運動の境界線について、様々な角度から解説いたしました。
重要な点は、公職選挙法が規制する「選挙運動」が、「特定の候補者の当選または落選を目的とした投票の依頼や勧誘」を指すという点です。個人の意見表明や社会問題への言及、情報共有は、基本的に表現の自由として保護されています。
不安な場合は、「これは特定の候補者への投票を直接的に促すものか」という視点で、ご自身の発言や行動を振り返ってみてください。
もしご自身の発言や行動について、さらに具体的な判断に迷う場合や、より詳細な情報が必要な場合は、最寄りの選挙管理委員会や弁護士などの専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。市民の皆様が安心して政治に参加し、ご自身の意見を発信できる社会を目指して、本サイトがその一助となれば幸いです。