インターネットでの政治的主張:選挙期間中に個人ができること・できないことQ&A
このサイトは、市民の皆様が政治的表現の自由を安全に行使できるよう、公職選挙法における「選挙運動」との境界線について解説することを目的としています。特に、選挙期間中におけるインターネット上での情報発信に関して、「何ができて、何ができないのか」という疑問を抱えている方が少なくありません。
ここでは、個人の皆様がインターネット(SNS、ブログ、ウェブサイトなど)を利用して政治的な主張を行う際のルールや注意点について、Q&A形式で具体的に解説いたします。
導入:個人の政治的表現と選挙運動の境界線
私たちには憲法で保障された「表現の自由」があります。これには政治的な意見を表明する自由も含まれます。しかし、選挙期間中には、公職選挙法によって「選挙運動」に関する様々なルールが定められています。インターネット上での活動についても、個人の意見表明と選挙運動の境界線は曖昧に感じられるかもしれません。
本記事では、この境界線を明確にし、安心して情報発信を行うための具体的な指針を提供します。
Q1: 選挙期間中、インターネットで政治的主張をすることはできますか?
回答: はい、個人の意見表明としてであれば、一定の範囲内で可能です。
詳細解説: 公職選挙法では、個人の表現の自由を尊重しつつ、選挙の公正さを保つために「選挙運動」に関するルールを設けています。インターネットを利用した選挙運動は2013年の公職選挙法改正によって解禁されましたが、これには「選挙運動」の定義と、それに基づく規制が伴います。
個人の皆様が特定の候補者や政党を支持・批判する意見をインターネット上で表明すること自体は、原則として表現の自由の範囲内です。重要なのは、その行為が「特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために、直接または間接に必要かつ有利な行為」である「選挙運動」とみなされるかどうか、という点です。単なる政策への賛否表明や個人的な意見の表明は、直ちに選挙運動とはなりません。
Q2: 特定の候補者や政党を支持する意見をSNSに投稿しても大丈夫ですか?
回答: はい、個人の意見表明として「〇〇候補の政策は素晴らしいと思います」といった内容であれば問題ありません。しかし、「〇〇候補に投票してください」といった具体的な投票依頼は、選挙運動とみなされる可能性があります。
詳細解説: 個人的な意見表明と選挙運動の区別は、その発言が「投票を呼びかける意図」を伴うかどうかで判断されることが多いです。
-
OK例:
- 「〇〇候補の掲げる△△政策は、私の考えと一致しており、共感できます。」
- 「私は〇〇政党の理念を支持しています。」
- 「今回の選挙、〇〇候補に期待しています。」
- 特定の候補者の演説を聞いた感想や、政策についての評価を述べること。
- 自身の支持政党や候補者について、個人的な応援の言葉を投稿すること。
-
NG例の可能性が高い例:
- 「皆さん、〇〇候補に清き一票をお願いします!」
- 「〇〇政党の候補者全員に投票しましょう。」
- 「必ず〇〇候補に投票してください。」
- 特定の候補者の当選を目的として、具体的に投票行動を促す表現は、選挙運動と判断される可能性があります。
インターネット上での投票依頼は、原則として「特定の候補者の陣営が、候補者情報届出を行ったウェブサイト等を通じて行うもの」とされています。個人が自身のSNS等で直接的な投票依頼を行う場合、それが「選挙運動」に該当するかは、個別の状況や表現の仕方に依存します。特に、不特定多数に向けた明確な投票依頼は注意が必要です。
Q3: 候補者のSNS投稿をシェアしたり、いいねを押したりするのはどうですか?
回答: 原則として、単なる情報拡散や共感の表明であれば問題ありません。
詳細解説: 候補者や政党が発信している情報をシェアしたり、リツイートしたり、あるいは「いいね」や「ハート」などのリアクションをしたりする行為は、多くの場合、その情報への共感や単なる情報拡散と解釈されます。これ自体を直ちに「選挙運動」と見なすことは、個人の表現の自由を過度に制限することになりかねないため、慎重な判断が求められます。
-
OK例:
- 候補者の政策に関する投稿をシェアし、「この政策は良いと思う」とコメントを添える。
- 候補者の活動報告の投稿に「いいね」を押す。
- 特定の政党の公式アカウントが発信するニュースをリツイートする。
-
NG例の可能性が高い例:
- シェアやリツイートの際に、「〇〇候補に投票してください!」といった具体的な投票依頼のコメントを意図的に付け加えること。
- 単なるシェアであっても、あまりにも組織的、反復的、あるいは計画的に行われる場合、全体の状況から選挙運動と判断される可能性もゼロではありません。
単独の行為というよりも、一連の行為全体や、発信者の意図、影響力などを総合的に判断されることになります。
Q4: 候補者を批判する意見を投稿することは許されますか?
回答: はい、事実に基づき、かつ名誉毀損や虚偽の事実の摘示に当たらない限り可能です。
詳細解説: 政治家や候補者に対する批判は、民主主義社会において重要な役割を果たします。公職選挙法においても、個人の批判的意見表明は表現の自由として広く認められています。
-
OK例:
- 「〇〇候補の△△政策には疑問を感じます。」
- 「〇〇政党のこれまでの実績は評価できません。」
- 「〇〇候補の発言には納得できない点がありました。」
-
NG例:
- 「〇〇候補は賄賂を受け取っているらしい。」(虚偽の事実を摘示した場合、公職選挙法違反や名誉毀損に該当する可能性があります。)
- 「〇〇候補は馬鹿だ、消えろ。」(単なる罵詈雑言や侮辱は、公職選挙法とは別に名誉毀損や侮辱罪に該当する可能性があります。)
批判の自由は保障されますが、それが誹謗中傷や虚偽の情報の拡散、あるいは特定の人物の名誉を傷つける行為に及ぶと、公職選挙法違反(虚偽事項公表罪など)や刑法上の罪(名誉毀損罪など)に問われる可能性があります。発信する内容が事実に基づいているか、客観的証拠があるかなどを十分に確認することが重要です。
Q5: インターネット上で「選挙運動」とみなされるのはどのような行為ですか?
回答: 一般に、「特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために、直接または間接に必要かつ有利な行為」が選挙運動とみなされます。インターネット上では、特に「特定の候補者への投票を具体的に依頼する行為」が該当しやすいです。
詳細解説: 公職選挙法における「選挙運動」の定義は幅広く、個別の事案ごとに判断されます。しかし、インターネット上での行為において特に注意すべき点を挙げます。
-
選挙運動に該当しやすい行為:
- 特定の候補者名を挙げた上で、明確に「〇〇候補に投票してください」「〇〇政党の候補者を当選させましょう」と繰り返し呼びかけること。
- 組織的または計画的に、不特定多数のユーザーに対して投票を依頼する投稿を拡散すること。
- 選挙運動期間中に、候補者や政党が公式に届け出ているウェブサイト等以外で、投票を呼びかけることを主たる目的とした活動を展開すること。
- 他人の選挙運動用ウェブサイト等へのリンクを貼る際に、そのリンクが実質的に投票依頼を構成するようなコメントを付すこと。
-
選挙運動とはみなされにくい行為:
- 特定の政策に対する賛否を表明すること。
- 特定の候補者の過去の実績や発言に対する個人的な評価や感想を述べること。
- ニュース記事や政治評論を引用し、自身の意見を付して議論を提起すること。
「選挙運動」であるかどうかは、行為の態様、頻度、発信者の意図、目的、内容、受ける側の印象などを総合的に判断されます。特に、特定の候補者や政党への「投票」を具体的に促す表現は、慎重になる必要があります。
Q6: 匿名で政治的な意見を表明することはできますか?
回答: はい、公職選挙法上は匿名でのインターネット上の政治的意見表明は可能です。ただし、他の法律(名誉毀損など)に違反しないよう注意が必要です。
詳細解説: 2013年の公職選挙法改正によりインターネット選挙運動が解禁されて以降、個人が氏名表示なくSNSやブログ等で政治的な意見を表明することは、公職選挙法上、原則として問題ないとされています。選挙運動自体も、特定の候補者が氏名表示をして行うものとは異なり、個人が行う意見表明においては匿名が許容されています。
しかし、匿名であるからといって、何を言っても許されるわけではありません。
- 注意点:
- 虚偽の事実を拡散すること: 匿名であっても、事実無根の情報を流布したり、候補者の名誉を毀損したりする行為は、公職選挙法違反(虚偽事項公表罪)や刑法上の罪(名誉毀損罪)に問われる可能性があります。
- 誹謗中傷: 他者を侮辱したり、過度な誹謗中傷を行ったりする行為は、法的な責任を問われる可能性があります。
匿名であることは、発信者の責任が軽減されることを意味しません。発言には常に責任が伴うことを認識し、健全な情報発信を心がけることが大切です。
まとめ:公正な選挙と個人の表現の自由のために
インターネットは、私たちの政治参加の可能性を大きく広げました。しかし、その自由な空間だからこそ、公職選挙法が求める公正な選挙の実現とのバランスを理解し、適切な情報発信を心がけることが重要です。
個人の政治的表現の自由は尊重されるべきですが、それが特定の候補者の当選を目的とした「選挙運動」に該当するかどうかの境界線は、常に意識しておく必要があります。本記事で解説した具体的な事例やNG例を参考に、安心して政治に関わる情報を発信してください。
もし、ご自身の行為が公職選挙法に抵触しないか不安な場合は、管轄の選挙管理委員会や弁護士にご相談いただくこともご検討ください。